受験は子どもを大きく成長させる。
親はポジティブな気持ちで応援してあげてほしい。

──近年、中学受験の人気が高まっています。江藤さんは著書の中で「受験は人生の糧になる」と述べられていますが、子どもが受験に挑戦することで得られるメリットについておしえてください。

一般的に勉強というのは、小学校から始まりその先延々と続くものであり、「ここが終わり」という明確なゴールはありません。それに対して受験は、「いつまでに、何をしなくてはいけない」という絶対的なゴールが決まっています。試験は待ってはくれませんから、その日に向けて努力を重ね、成果を出さなければならないところに厳しさがあります。そうした受験から得られるものは、知識はもちろんですが、それ以上に精神的に鍛えられる面が大きいように思います。

今の子どもたちが生きる環境には、ストレスはあっても、厳しさはあまりないように感じます。親も社会も過保護になっており、本気で叱ってくれる大人も少なくなってきています。ただ、成長過程にある子どもが「生きる力」を身につけるためには、どこかで大きな壁を超えなければなりません。そういう意味で受験は、大変な負荷をかけて自分と向き合い、ある一点に向かって集中的に力を出し切るわけですから、子どもにとって大きな試練となります。そこから得られる知識や経験は、計り知れないものがあるでしょう。

私の娘たちは二人とも、「中学受験をしてすごく良かった」と言っています。彼女たちが受験をとおして一番身につけたのは、頑張る力でした。目標に向かって歯を食いしばり、自分の力を振り絞って出し切る、そんな頑張る力です。同時に、「自分は努力することができる」という自己効力感も手にすることができました。一度超えたハードルは、その次に跳ぶときには難なく超えられるように、一度受験に立ち向かった子どもは、その後の人生で課題に直面しても、「自分ならできる」と頑張ることができるのではないでしょうか。私の娘たちも、今は社会に出て子育てをしながら働いていますが、忙しさに負けずに力強く人生を歩んでいる様子です。

もしも「わが子を受験させたい」と思うのであれば、「なぜ受験させたいのか」「受験プロセスでどんな力を育てたいのか」という点にこだわり抜いてほしいと思います。そして一度子どもが受験すると決めたら、親はポジティブな気持ちを持って励まし、応援してあげてほしいです。

子育ては一人で頑張りすぎないで。
親同士がつながり話すことで、元気を取り戻そう。

──子育てを頑張っている親御さんたちに、メッセージをお願いします。

私のところに来てくださる親御さんたちは、子育てや教育についてとてもよく勉強しています。その中には、ネットやSNSに溢れるいろんな情報に振り回され、ぐらぐら揺れ動いてしまっている方もいます。また、かつては親たちの間で「うちの子は全然ダメなのよ~」という会話がよくありましたが、最近では「うちの子」よりも「親である私がダメだ」と自分を責めてしまい、不安やストレスを感じている方が多いように感じます。

でも、実際には非の打ちどころの無い子育てなんてありませんし、親として最初から完璧な人などいません。私たち世代もみんなそうであったように、悩み、落ち込み、そして再び立ち上がり…。そうやって繰り返し子どもと向き合いながら、親として少しずつ成長していくのが本来の姿です。

子育ては、親だけが担うべきものではありません。すべてを一人で背負おうとせず、学校や塾、地域のコミュニティ、さらにはいろんな子育て支援サービスなど、サポートしてくれる場所を身近に見つけて、どんどん頼ってほしいと思います。また、時には親も子育てから一歩離れ、息抜きをしたり思考を整理したりする時間を持つことが大切です。たとえば友人とのお茶会やオンラインセミナーなど、親同士がつながって話せる場に身を置き、子育ての悩みや喜びを共有してみてはいかがでしょうか。それにより、親自身が元気を取り戻せば、明るい気持ちでわが子と向き合うことができるはずです。

(2024年6月発行 キッズジャーナル vol.18より)

PROFILE

江藤真規(えとう まき)
教育コーチングオフィス 「サイタコーディネーション」代表
東京都生まれ。お茶の水女子大学卒業。自身の2人の娘の子育て経験を通じて親子間のコミュニケーションの重要性を実感し、コーチングの認定資格を取得。子育ての孤立化を防ぎ、より良い子育てに向かうためには「保護者同士のつながりの場」が必要だと感じ、子育てコーチングスクールを設立。子どもの主体性・思考力・表現力を育む家庭環境作りや、母親の社会的役割を拡げるための活動を行う。一方で、仕事と学びの両立を目指し、2人の娘が東京大学を卒業後、自身も東京大学大学院教育学研究科修士課程に進み、博士(教育学)の学位を取得。現在、教育コーチングオフィス「サイタコーディネーション」代表として、講演・セミナー・執筆活動などで広く活動している。

サイタコーディネーション

江藤真規さんが代表を務める教育コーチングオフィス。子育て中の保護者のエンパワメントを使命とし、家庭での子どもとの関わり方、親自身のあり方について学べる場を提供しています。

【外部リンク】 「サイタコーディネーション」WEBサイト

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