今だからこそ、感謝と夢を持って生きてほしい。【絵本作家・宮西達也】

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子どもの頃から絵を描くことが大好きだったという宮西さん。「絵本作家になる」という夢を追い求め、学生時代からたくさんの挑戦と努力を積み重ねてきました。数々のヒット作品を世に生み出した〝絵本のプロ〟として、そして一人の父親として、これからの時代を生きる皆さんに宛てたメッセージをお届けします。

絵本作家を目指したきっかけをおしえてください。
僕は、子どもの時から絵を描くことが好きでした。中学は陸上部、高校はサッカー部。運動も好きでしたが、ずっと絵を描くことが好きで、高校二年生の時に、「将来は絵を描く仕事につきたい」と美術研究所にデッサンと淡彩を習いに行きました(美術の大学に入るにはデッサンと淡彩の実技試験もあったので)。そして美術の大学に入り、イラストレーターを目指していました。
そんな中、大学二年生の時でした。NHKの人形劇を製作する事務所にアルバイトに行きました。そこで人形を作ったり、小道具を作ったり、背景の絵を描いていました。そんな事務所にある日、絵本の仕事が入りました。絵は、事務所のアートディレクターが担当しましたが、僕はアシスタントで全てのページの色を塗らせてもらいました。それが、僕にとっての初めての絵本制作でした。その時は、絵本ってこんなにたくさんの絵が描けていいなぁと思っていました。
その後、僕は大学を卒業してグラフィックデザイナーになりました。デザイナーの仕事はとても楽しかったですが、僕の夢は「絵を描くこと」でした。なので、会社を辞め、またアルバイトをしながら毎日毎日、自分の絵を描いていました。そして、その絵を広告代理店に持ち込んで仕事をもらっていました。

本気で「絵本の仕事」をやりたかったんですね。
そんなある日、以前にアルバイトで絵本の色を塗らせてもらったことを思い出しました。僕は、その日から絵本を独学で勉強し、半年後に絵本の原画を描き上げました。その原画を出版社に持ち込み見てもらいました。
「ダメだダメだ!」「新人は採らないよ」「こんなつまらないものは持ってくるな」…何社にも断られました。そんなことを一年間続け、ある出版社の編集者に見てもらうと「ヘンテコだけど面白いから預からせてくれ」と言われました。嬉しかったです。そして、一週間後、編集から電話がありました。
「あの原画、編集長や他の編集者がみんな見たよ。みんな言ってた。ヘンテコだって。でも面白いからウチで出版するよ」
そして、僕の最初の絵本が本屋さんに並びました。僕が本屋さんに見に行くと、子どもも大人もみんな、嬉しそうに、笑いながら僕の本を読んでいました。それを見て、絵本作家ってなんて素敵な仕事なんだろう。そう思って今まで続けてきました。

子どもたちが大好きな「絵本」。そこには、どのような魅力があるのでしょうか?
多くの人が、(大人も子どもも)絵本は赤ちゃんが見るもの、ちっちゃな子が読むものだと思っています。でも、絵本は人間が読むものです。子どもから大人まで楽しめるのが絵本です。こんな書物はありません。ページをめくることによって、時間を飛び越えたり、環境を変えたり、文章や絵をみて、笑ったり、びっくりしたり、感動することができます。今の時代だからこそ、大人の人達に絵本を読んでほしいです。

ご自身の作品を通じて、子どもたちやその保護者の方にどのようなことを伝えたいとお考えですか?
僕は今まで300冊以上の本を描いてきました。色々なキャラクター、ストーリーで描いてきましたが、いつも、どの一冊にも、「優しさのあるもの」「思いやりのあるもの」をと思ってきました。ただ、楽しい、面白ければいいというのではなく、必ず「優しさ」「思いやり」というテーマが僕の中にはあります。

絵本を子どもに読み聞かせることは、やはり大切でしょうか?親が心がけたい点などをおしえてください。
僕がグラフィックデザイナーの頃、こんなポスターがありました。『子育て頑張らなくたっていい、ただただ子どもを抱きしめてあげてください』
絵本を読む時に、子どもをひざに抱き読んであげます。それだけでも子どもとのスキンシップです。下手な読み方でも、お母さんやお父さんの読む言葉を間近で聞く子どもは安心します。そのことは素敵な思い出にもなります。
よく、絵本にCDがついていて、声優さんや俳優さんが上手に読んでいるものがあります。それを子どもに「一人で聞いていなさい」と渡すのは、楽チンです。お母さんやお父さんが楽できる分、子どもは良くならないと僕は思います。
絵本を読むのは大変です。子どもに「もう一回読んで」と頼まれると辛くなる時があるかもしれない。でもその分、子どもたちは良くなります(感性や読解力も)。僕はそう思います。どうぞ読み聞かせを子どもと楽しんでください。

日本の子どもの読解力低下が懸念されています。
幼い頃に絵本を好きになることは、その後の読書への興味関心にプラスにはたらくとお考えでしょうか?

絵本の後は童話、そして次は小説などの書物につながりますが、今、絵本の後、童話に進む子が少なくなってきました。「あんなに絵本が好きだった子が、小学校高学年になると本を読まなくなった」と言うお母さんがよくいます。
今は、漫画やアニメ、ゲームなど楽しいものがいっぱいです。それこそ習い事もたくさんで、子どもたちは「時間がない」と言います。ゲームや漫画はちょっとの時間でも楽しめたりします。アニメも途中で止めたり、後でも見たりすることができます。
それに比べると、読書は時間がかかります。静かな環境も必要です。大変です。でも、大変なものというのは、ちゃんと残るものです。絵本を読んでいた子は、大きくなって本を読むきっかけが出てきた時には、また本を読み出します。
ゲームやアニメ、漫画などで「面白い!感動した!」と言う子がいますが、ほとんど戦いだったり、スピードだったり刺激的な面白さで、本当の面白さ、感動ではないような気がします(全てのゲーム・アニメ・漫画がそうとは言えませんが。僕の絵本「ティラノシリーズ」も映画公開予定です・笑)。
なので、絵本でしっかりと感動を味わった子は、本に戻ってくると思います。

家庭での子育てにおいては、何が大事でしょうか?
宮西さん自身が感じていることをお聞かせください。

僕は、子どもに「勉強しなさい」と言ったことはないです(宿題はやりなさいとは言いました)。僕の両親もそうでした。「勉強しろ!」と言って、ニコニコしながら「うん、します」と言う子どもを見たことがありません。「うるさいなぁ」とか「今やろうと思ってたのに」とか言いますよね。
やはり自分からしようと思わないと、人間はしません。僕は、「絵を描く仕事」が夢でした。だから美術の大学に行きたいと思いました。そのためにデッサンを習いました。毎日、美術研究所から帰るのは最終のバスでした。それでも頑張れました。美術の大学に入るには、実技だけでなく筆記試験もありました。勉強は好きではなかったですが、美術の大学に入るために、必死で勉強しました。
どうぞ、子どもたちに夢を持たせてください。そして、そのためにも今、大人のみんなが不平・不満を持って生きるのでなく、その反対の感謝を持って、夢を持って、生きてほしいです。子どもたちは大人の背中を見て、「あんな大人になりたい」と夢を持つのだから。

小学生たちに向けてメッセージをお願いします。
今、世の中はコロナで世界中が大変なことになっています。外に出ることがなかなかできません。我慢しなくてはいけません。でも、いいチャンスです。考える時間がいっぱいです。
今まで、学校に行くのは当たり前。友達と力を合わせて何かしたり、遊んだりするのは当たり前。学校の先生が教えるのは当たり前。なんて、思っていませんでしたか?当たり前だと思っていたことが、本当は、すごくありがたいことだったと思いませんか。どうぞ、感謝できることがいくつあるか数えてみてください。
そして、何度も言いますが、夢を持ってください。僕はもう大きな夢は持てません(小さな夢はたくさんありますが)。宇宙飛行士になりたいと言っても無理です。オリンピック選手になりたいと言っても無理です。でも、みんなは、何にでもなれます。何でも挑戦できます。どうぞ、夢を持ち、そのために一生懸命頑張ってください。そして、今を感謝し、前に進んでください。

2020年6月発行 キッズジャーナルvol.10 より

PROFILE
宮西達也(絵本作家)
1956年生まれ、静岡県駿東郡清水町出身。日本大学芸術学部美術学科卒業。人形美術・グラフィックデザイナーを経て絵本を描き始める。『おまえうまそうだな』をはじめとする「ティラノサウルス」シリーズ、「ウルトラマン」シリーズなど300冊近くの作品を出版し、中でも「ティラノサウルス」シリーズは国内外で累計1000万部を突破。読み聞かせや講演会などの活動も積極的に行っている。三嶋大社の近くに「TATSU’SGALLERY(タッズ・ギャラリー)」を開設中。

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