世界遺産に登録されている富士山は、その美しさから毎年たくさんの観光客が訪れます。多くの人が頂上を目指して登りますが、富士下山家の岩崎さんは、「富士山の本当の魅力は五合目より下にある」と語ります。富士山の自然や歴史文化を守り、未来に伝えることを目的とした「富士下山」ツアー。その取り組みと思いについて、お話を伺いました。
五合目から下には魅力がいっぱい
──今年も富士山には20万人を超える登山客が訪れました。一般的に富士山観光といえば富士山に「登ること」を指しますが、岩崎さんは「下ること」の魅力を発信されています。それは具体的にどのような取り組みなのでしょうか?
私が提案する「富士下山」は、「富士山の知られざる魅力に出会う自然旅行」をコンセプトに、五合目から下るトレッキングツアーです。意外に知られていませんが、富士山の五合目から下には、その魅力がたくさん詰まっています。
富士山は、日本一高い山であると同時に、日本最大の火山です。その自然は標高差によってさまざまな環境を生み出し、噴火した時代や場所によっても異なる変遷を遂げています。ふもとまで下る静かなエリアに一歩足を踏み入れれば、驚くほど多様な自然環境が私たちを迎え入れてくれます。
さらに、富士山は古くから神の住む山として多くの信仰を集めてきました。利用者数の少ない五合目から下の登山道は、昔の史跡や文化が当時のまま数多く残されています。下るごとに次々と変わる風景を楽しみながら、自然をじっくり観察し、新しい発見や感動に出会える旅。それが「富士下山」ツアーです。
──山登りとはまた違った良さがありそうですね。
普通の登山は頂上を目指すことが目的ですが、「富士下山」は「目的地にたどり着かなくても目的を達成できる」という特長があります。ひたすら上を目指すのではなく、歩きながらゆっくりと景色や自然を楽しむことに集中できます。もし歩くのがつらくなったら、ペースを落としたり道を引き返したりすればいい。山登りのように、頂上に行けなかったから失敗ということはありません。
また、参加者の体力や年齢に応じて、さまざまなコースを選べるというメリットもあります。富士山頂まで登るにはそれなりの体力や時間が必要ですが、「富士下山」は体力のない子どもや高齢者、ハンディキャップを持つ人も楽しめます。さらに、富士山の登山シーズンは夏の間(7月から9月上旬)に限られていますが、「富士下山」は10月の紅葉の季節まで楽しむことができます。
近年、富士山人気の高まりから観光客が増えすぎるオーバーツーリズムの問題が指摘されています。「富士下山」は、春・秋・冬それぞれの富士山の魅力を発信することで、来訪者が夏に集中するのを避ける効果もあります。